アートを守る"防災訓練"

 3月は9月(1923年の関東大震災)とともに、自然災害とそれのもたらす二次災害とを想定して、さかんに訓練をしたり、さまざまな提言を発表したりする月になった。災害に強いインフラストラクチャー、緊急時を想定したたゆみない訓練、遺漏のない危機管理を実現する仕組みづくり。こうした施策が人々の生命と財産とを守ることにつながる。今般ここに「アートを災害から守る」という視点を付け加えたい。
 企業メセナ協議会は 2011年3月、東日本大震災をうけて、GBFund(ジービーファンド)を立ち上げた。これは「芸術・文化による復興支援」を目的とした基金で、すでに260件を超える活動を支援している。これらの活動から見えてくるのは、アートが、人々の関係をつなぎ地域のコミュニティーを維持するための、強力な「かすがい」となっていることだ。インフラが 再整備され、容れ物としての街がかつての姿に戻っても、そこに住まう人々のつながりを再生させない限り、真の復興とは言えない。アートはその真の復興をもたらす魔法の鍵となる。
 ところが、その「かすがい」としての力強さとは裏腹に、アート自体は災害にすこぶる弱い。災害発生時、生命と財産を守ることを優先するのは当然だ。それに比べればアートを守ることの優先順位は低い。だから、地域の芸能などを含めたアート一般は、ともすれば生活の波間に消えていく可能性すらある。だが先述の通り、アートは真の復興をもたらす魔法の鍵だ。災害後にアートは力を発揮する。そこで、命を守る防災訓練と同様、「アートを守る防災訓練」が必要になる。
 アートには大雑把に言って、(1)制作の背景と技術、(2)表現の結果としてのモノやコト、(3)モノやコトの受容と反応、という3つの局面がある。災害時、この3局面を一体的に守ることができれば、アートは災害後の復興に大いに力を振るうことができる。免震構造の美術館であれば「モノ」(収蔵品)を守ることはできる。しかし、その「モノ」の制作の背景や技術、人々の受容のありよう、その反応の質を保存することはできない。たとえば、(1)を保存するためには継承される技術を顕在化(明文化・映像化)する、(3)を保存するためには受容者の内心を積極的に言語化する(広い意味での批評を残す)といったことが考えられる。このように各局面をまるごと再構築できるように日頃から準備しておくことで、災害に強いアートが生まれる。 災害に強いアートは復興時、人々の関係をつなぎ地域のコミュニティーを維持する強力な 「かすがい」となる。
 さまざまなアート活動で、3つの局面を一体的に保全する「アートを守る防災訓練」を実施すること。それは、(A)人々とアートとの日常の接触を増やし、(B)アート自体の足腰を強め、(C)災害時の復興の備えとなる。 そのために、(ア)各局面の保全方法を開発し、(イ)保全に携わる人材を育て、(ウ)災害復興時のアート活動の方針を策定する必要がある。アートを災害から守り、そのアートが災害からの復興を助ける。防災とアートの先進国・日本こそ、この問題を深めていくのにふさわしい場所だ。


写真:2013年の中部ドイツ洪水(ザクセン=アンハルト州ヴァイセンフェルス)




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