A・ビルスマ他『バッハ・古楽・チェロ ― アンナー・ビルスマは語る』

アンナー・ビルスマ, 渡邊順生『バッハ・古楽・チェロ ― アンナー・ビルスマは語る』(加藤拓未 編・訳)アルテスパブリッシング, 2016年〔本体3800円+税〕

 ピリオド・アプローチを採用する代表的なチェロ奏者のひとり、アンナー・ビルスマと、日本の古典鍵盤楽器奏者、渡邊順生との対話篇。ビルスマ自身の音楽活動を語る第1部、楽器について説明する第2部、バッハの「無伴奏チェロ組曲」の奏法を解説する第3部、ボッケリーニを題材に広く音楽について話題を巡らせる第4部からなる。そこに渡邊によるビルスマとの思い出語りを加えた構成で、この音楽家の世界に迫る。
 各部とも個別具体的なことがらを話題としているにもかかわらず、その中心にはつねに、西洋音楽の太い幹がそそり立つ。これがこの書物のもっとも優れた特徴だ。欧州の伝統として受け取ったことや、楽器・史料から学び取ったことなどを演奏に生かし、その演奏活動の中で気がついたことをさらにそこに付け加えることで、この太い幹は出来上がっている。角度を変えつつこうした往還運動を記述すると、先述の4つの切り口が現れるというわけだ。
 往還運動の点でもっとも豊かな実を結んでいるのはやはり、「無伴奏チェロ組曲」の奏法を解説する第3部だろう。場合によってはとても微視的な題材にも踏み込むが、それさえもつねに大きな音楽論へと即座につなげていく。こうした視点の行き来によって読み手は、「演奏解釈」と称される心の持ちようや頭の使い方を追体験する。この追体験によって、聴き手も弾き手も歌い手もひとしく「音楽家」に近づくことができるだろう。


初出:音楽現代 2017年3月号






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