新日本フィルハーモ二ー交響楽団 第560回定期演奏会



 ダニエル・ハーディングマーラーの「交響曲第3番」を披露した。2010年から楽団の「ミュージック・パートナー」を務めたハーディングの、任期最後の公演。演奏は指揮者と楽団、両者の醸成してきた音楽的成果を振り返る、地に足のついたものだった。
 たとえば管弦楽を7割の力でドライヴすること。これは2012年11月のチャイコフスキー交響曲第4番」の演奏で、ハーディングが示した方向だ。無理に重みを持たせず、その分のリソースをバランス調整に使う。次に、こうしたバランスの移り変わりを利用して緊張と緩和を描くこと。大音量に頼らずに迫力を出すことが可能になる。これは2014年7月のブラームス交響曲第2番・第3番」での成果。第3に距離感の描き方。2016年1月のブリテン「戦争レクイエム」では、音響体の組み合わせによる距離の違いが、音楽の懐の深さを表現し、それがさらに詩の世界観と平仄を合わせた。
 こうした数々の成果はすべて、当夜のマーラー交響曲第3番」に流れ込んでいる。管弦楽の7割ドライヴは歌い手の絶叫を防ぎ、とりわけ対位法的な部分で成果を上げた。バランス調整の結果としての音色変化が、段落感と肩透かしの両面を掘り深く表現。管弦楽、合唱、各独唱者、バンダの手の込んだ空間配置で距離感を表現し、それを作品世界と結びつけていく。
 最終公演の御祝儀にとどまらない拍手と歓声。大団円である。〔 2016年7月4日(月)東京・サントリーホール


初出:モーストリー・クラシック 2016年10月号




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