ベルリン古楽アカデミー「ヴェネツィアの休日 ― 協奏曲とシンフォニア」



 古楽演奏の先頭を走り続ける楽団・ベルリン古楽アカデミーの日本公演。第1夜ではバッハ親子の作品を、第2夜ではヴェネツィア管弦楽曲を紹介した。興味深いことに、第2夜のほうにより強く、バッハの香りを感じる結果となった。
 1713年、バッハは雇い主の命により、ヴェネツィアの協奏曲を集中的に学習・編曲した。当夜はバッハが編曲に取り組んだ、ヴィヴァルディやマルチェッロの作品が、プログラムに並ぶ。あわせてテッサリーニやカルダーラなど、同時代のヴェネツィア人の管弦楽曲も演奏された。
 この日は徹頭徹尾、通奏低音陣が舞台の主導権を握った。さまざまな子音(音の出だし)と、違いの際立つ母音(響の広がり)とで、流れのよい口跡を実現。チェロのバラニャイを要に、鍵盤・管・撥弦楽器が平仄を合わせていく。このバス奏者たちが他のパートにさかんに対話を仕掛ける。上声部はときに寄り添いときに抗いながら、通奏低音との「おしゃべり」に興じる。そのおかげで、楽譜を再生しているにもかかわらず、どの部分を切り取っても即興的な味わいが弾け出る。2曲のオーボエ協奏曲で独奏を担当したレフラーも、息の形の見える立体的な演奏。その形の変化が作品の緊張と緩和に結びつく。
 ヴェネツィアの作品に出会ったときのバッハの驚きや興奮を、この日の演奏の中に見る。第1夜と第2夜とは対比的と言うより、独と伊とがそうであるように、地続きと言ったほうがよい。〔2016年6月27日(月)トッパンホール〕


初出:モーストリー・クラシック 2016年9月号




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