バッハ《ゴルトベルク変奏曲》-- 武久源造(チェンバロ)



J・S・バッハ《ゴルトベルク変奏曲》《14のカノン》▼武久源造(チェンバロ、オルガン), 山川節子(チェンバロ)〔ALCD-1156〕

古典鍵盤楽器奏者の武久が、いわき芸術文化交流館アリオスの所蔵楽器を使って、バッハの晩年期の作品を弾く。《ゴルトベルク変奏曲》に用いた楽器には弦のセットが4つあり、普通の二段鍵盤のチェンバロよりも低音側の弦列が多い。それにより多彩な音色変化が可能になる。武久はその機構を演奏に存分に生かす。第16変奏の華々しさがよりいっそう強調されるのも、低音の厚みが管弦楽を彷彿とさせるから。重要なのは曲と楽器のスケールの大きさに、演奏の懐の深さが負けていないことだ。随所でスイングする楽想、折々に緊張感を醸すアクセルとブレーキ。最後のアリアも、元の位置に戻るのでなく、螺旋階段を一周分昇ったような趣で面白い。

初出:音楽現代 2016年4月号



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