上岡敏之&読売日本交響楽団 第182回東京芸術劇場マチネーシリーズ



 ドイツ・ヴッパータール市立歌劇場の音楽総監督で、日本でも活躍する上岡敏之の指揮の下、読響がベートーヴェンの「第九交響曲」を披露した。合唱は新国立劇場合唱団。
 年中行事に終わらせない、とする指揮者の意気込みが演奏から伝わってくる。たとえば冒頭楽章。中音域・低音域を充実させて、声部の絡み合いを克明に描く。飛び立つような軽やかさを第2楽章の随所に感じるのは、オーケストラが7割の力で音楽をドライブさせるから。第3楽章では、アダージョとアンダンテとの対比が決然と描かれ、性格の違いがはっきりと打ち出される。こうした手入れの行き届いた運びはいわば、室内楽の手触りだ。
 最終楽章でもこの室内楽は維持されるが、バリトン(シグルザルソン)の大上段に構えた朗唱「友よ、そんな調べではなく!」から、それが大管弦楽へと姿を変える。このコントラストは実際、作品の肝。純器楽部分を室内楽として演奏することで上岡は、声楽部分との輝度差を大きくすると同時に、親密なアンサンブルと細やかな楽想変化とを実現した。
 合唱の貢献も特筆ものだ。「抱き合うがよい」と男声が歌い出すところでの、声とトロンボーンとの溶け合いは、聖歌の響きを強く感じさせる。それが直前の軍楽調の部分と呼応して、大団円のヴォルテージを高めるのに一役買った。演奏の新鮮味が初春を先取る。指揮者の狙いがぴたりと当たった57分。〔2015年12月19日(土)東京芸術劇場コンサートホール〕

初出:モーストリー・クラシック 2016年3月号



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