B→C 第178回 -- 佐藤卓史(ピアノ)



 ウィーンで研鑽を積むピアニスト、佐藤卓史の演奏を聴く。このシリーズの習い通り、バロック期の作品から21世紀の新作までが演目に並ぶ。佐藤は今回、ダンスにまつわる曲を集めてプログラムを構成した。
 バッハであれば「フランス組曲第6番」。弦楽器の弓の上下を思わせる拍節感で、締まるところと緩むところとをきちんと造形し、舞曲それぞれの持つ性格を折り目正しく描き出していく。サラバンドなどで聴こえてきた通り一遍の装飾音は玉に瑕だが、バッハの芯を捉えた演奏にはうなずくほかない。
 水際立っていたのはウィーンもので固めた後半。作品と楽器と奏者の「言葉づかい」の平仄がぴたりと一致した。ペダル操作で音色の幅を確保し、打鍵でその間を繊細につないでいく。そのおかげか、コントの「12のワルツとコーダ」の持つ、古典と前衛の中性的な魅力がよく出た。シュトラウス/エヴラーの「美しく青きドナウ」による、超絶技巧の大団円も清々しい。〔2016年1月12日(火)東京オペラシティリサイタルホール〕

初出:モーストリー・クラシック 2016年4月号



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