「星の冠」ロベルト&クララ・シューマン -- 小倉貴久子



「星の冠」ロベルト&クララ・シューマン▼小倉貴久子(フォルテピアノ)〔ALCD-1153〕

シューマン夫妻の作品を、小倉貴久子が作曲者と同時代のフォルテピアノで演奏する。シュトライヒャーが作ったこの楽器は、音域によって異なる音色を持つ。それが作品に仕組まれた「おしゃべり」の様子を克明に描き出していて興味深い。とりわけコントラバスのピチカートを思わせる低音の響きが、ロベルト特有の「翳り」をうまくすくい取っていく。音色の変化や音量の対比が、緊張と緩和の行き来に結びつけられているので、ロマン派特有の「怪しげな」ハーモニーの運びも、しっかりと「居心地悪く」聴き手の耳元に届く。それでこそシューマンの音楽だ。作品の芯に迫る小倉の手練が心地よい。ロマン派のピリオド演奏、次の一手に期待。

初出:音楽現代 2016年3月号



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