バッハ「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」-- 五嶋みどり



J・S・バッハ《無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ》全曲▼五嶋みどり(ヴァイオリン)〔OONYX4123〕

現代楽器では表現しにくい18世紀の語法を擬似的に再現するところに、奏者の力量が光る。いわば現代語訳といったところ。たとえば、音の長短の組み替えで語り口を変化させる。これは「子音」の種類に限りのある現代楽器だからこその処理。こうした取り組みが、とりわけソナタのフーガで成果を上げた。音色の変化と語り口の変化とで複数の声部を描き分ける。主題と主題とをつなぐエピソード部に楽しみが多い演奏は本物だ。一方、舞曲集であるパルティータでは、基本リズムの連なりを自由に処理しすぎか。ときおり訪れる楽譜本来の「肩透かし」がスポイルされる。深刻すぎない雰囲気が聴き手にとっては心地よい。愉快な無伴奏、歓迎である。

初出:音楽現代 2016年1月号



.