プレトニョフ&ロシア・ナショナル管 調布音楽祭特別公演



2015年6月27日(土)▼調布市グリーンホール大ホール▼ミハイル・プレトニョフ(指揮・ピアノ), ロシア・ナショナル管弦楽団

 プレトニョフが自ら創設したオーケストラを引き連れ来日、調布音楽祭でモーツァルトチャイコフスキーを披露した。前者の「協奏曲第24番」ではピアノを独奏し(指揮はラヴリック)、後者の「交響曲第5番」では指揮棒を振った。
 協奏曲の後に演奏されたアンコール、モーツァルトの「ロンド ニ長調」に、プレトニョフの考える音楽が、コンパクトに詰め込まれていた。正確にテンポを守る左手に対して、自在に伸び縮みする右手。「盗む(そして返す)」という原義をしっかりと踏まえたテンポ・ルバートだ。音色や音量の幅は広くないが、正確さと自由さとを対置させた時間操作で、緊張の増減を表していく。
 協奏曲も交響曲も、プレトニョフのこうした音楽鑑に貫かれていた。協奏曲、とりわけその第2楽章は、実にゆったりとした足取りだが、散りばめられた声部の意図的なずれが、聴き手の耳をその都度、ひきつける。
 管楽器群に弦楽寄りの音色を求めるのはロシアの伝統か。音色の幅は狭いが一体性は高くなる。チャイコフスキーでは、楽団をひとつの弦楽器とするこうした差配が、ここぞという場面で力を発揮した。楽章を越えて現れるテーマを、我々の記憶に強く刻み込むのだ。
 不易と流行の伝でいけば、必ずしも新しさを見せる流行の演奏ではないが、長らく変わらぬ音楽表現の芯に出会える点で、故きを温ねる不易の演奏だったと言える。

初出:モーストリー・クラシック 2015年9月号



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