バッハ《パルティータ》全曲 -- 武久源造



J・S・バッハ《パルティータ》全曲▼武久源造(ピアノ)〔ALCD1148/49〕

バッハの百科全書的な傾向は「パルティータ」にも刻印されている。たとえば第1番の冒頭2曲の対置。「プレルディウム」は実質的にはくつろいだ雰囲気の18世紀風アルマンド。一方「アルマンド」は、より古い時代の闊達な舞曲の姿を残す。前者にはフランス風の装飾が、後者にはイタリア風の即興風楽句が顔を出す。そもそも「アルマンド」は「ドイツの」を意味する言葉だ。古と今、独と仏と伊。時空間の統合にバッハの個性が滲む。この個性をジルバーマン・ピアノの機構が見事にあぶり出す。テンポの伸縮、音色の変化、音量の増減、緊張感の推移を、この楽器とバッハの作品とで結ぶ武久の手並みも鮮やか。「魅力的」の言葉がこの上なく似合う1枚。

初出:音楽現代 2015年6月号



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