東京交響楽団第628回定期演奏会



 音楽監督ジョナサン・ノットの指揮で、ベルクの「抒情組曲」(弦楽合奏版)とワーグナーの「パルジファル」(抜粋版)とが披露された。
 「抒情組曲」には対位法的な部分が多いが、ノットは内声を厚く響かせ、埋もれがちな声部の存在感を保つ。終楽章「情熱のアダージョ」の結尾、全音階がちの下行音形が浮き立って聴こえてきたのは重要だ。この下行音形はこの日の鍵。「パルジファル」の要所で「信仰の動機」として使われる。だから後半、この音形が登場した瞬間、前後半の回路がしっかりとつながる。こうして当夜のプログラムは、信仰の掘り下げを芯にして、その一体性を強めた。その意味で復活祭前、四旬節の季節にふさわしいカップリングだった。
 「パルジファル」に登板した独唱陣の活躍もまぶしい。とりわけ標題役のテノール、エルスナーは、言葉をまことに繊細に扱いつつも、それを大きな身体いっぱいに響かせる。相反する表現の方向をきれいに統合していた。(2015年3月14日 サントリーホール

初出:音楽現代 2015年5月号


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