東京フィルハーモニー交響楽団 第857回定期演奏会



 阪哲朗の指揮でベートーヴェンの「田園交響曲」を聴く。前半は仲道郁代の独奏によるシューマンの「ピアノ協奏曲」。この日の白眉はこのイ短調協奏曲だった。
 ロマン主義の雰囲気を保ちつつ、古典的な佇まいの演奏を聴かせる仲道。たとえば、装飾音を強拍にきちっと乗せて、不協和音とその解決をひとつひとつ明確にする。そこには古典的な造形の意思がある。仲道はピアノの音域によって違う音色をあてる。同じ音形を違う音域で繰り返すようなところで、作曲家の意図がはっきりと浮かび上がる、という寸法だ。また和声の変化とこの音色変化とが結びつくことで、緊張と緩和の細かな描き分けが可能になった。こうした姿勢はまた、声部が絡み合う部分の交通整理にも役立つので、シューマンの晦渋さを緩和してくれる。
 仲道のいない後半の舞台では、こうした音楽の滋味に溢れた演奏が聴けなかったのは残念だが、前半の独奏の成果はそれを覆うほど大きい。(2015年1月18日オーチャードホール

初出:音楽現代 2015年3月号


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