マーラー《千人の交響曲》ー ノット&東響



ミューザ川崎シンフォニーホール開館10周年記念コンサート▼2014年12月7日(日)

 ジョナサン・ノット率いる東京交響楽団が、拠点とするホールの10周年に大輪の花を添える。演目はマーラー交響曲第8番「千人の交響曲」。この日400人を超える音楽家が、ステージとその上方とに陣取った。
 この日の主役は合唱だ(東響コーラス・東京少年少女合唱隊)。たとえば第1部の第508小節に始まる「主なる父に栄光あれ」。大きく上下する音程が特徴的なこの部分、児童合唱から独唱へと渡された「Gloria」のバトンはやがて二重合唱にいたる。ここは強音と弱音、鋭さと丸み、迫力と繊細さといった対立項を1曲に統合する協奏様式。そんな対立項を合唱が、きれいに描き分けていく。
 オーケストラ自身は最善を尽くしていたように思われる。だが、器楽が合唱の旋律を重複して演奏する「コラ・パルテ」に問題があった。うまくはまる場面もあるにはあるが、多くの場合、バランスに難がある。歌を飲み込んでしまったり、逆に控えめにすると今度は音色上の溶け合いがなかったり。こうして各所に立ち上がるはずの太い柱や梁から、立体感が失われていく。
 演奏会場に広がる音楽の扇面を、扇の要たる指揮者は首尾よく束ねられていたか。それぞれの仕事が良くとも、効果はバランス次第というのがマーラーの恐ろしいところだ。とはいえ、400人超の独唱・合唱・管弦楽がおのおの持ち場を守った姿はやはり、圧巻のひとことに尽きる。

初出:モーストリー・クラシック 2015年3月号


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