バッハ《イギリス組曲》第1・3・5番 − アンデルシェフスキ



ピョートル・アンデルシェフスキ(ピアノ)〔WPCS12882〕

2014年の9月、バッハゆかりの街ケーテンで、アンデルシェフスキの《イギリス組曲》を聴いた。音色差と音量差とで声部の対話をあぶり出すスタイル。それに対してこの録音では、子音と句読点とで「音楽のおしゃべり」と「ダンスの楽しみ」を表現する。実演と録音とのコントラストが、同じ曲をめぐる解釈の違いにあらわれる。そこにこの音楽家の知性がにじむ。男声に似た通奏低音声部が、全体の緊張感と時間経過をしっかりと管理するので、アレマンドやサラバンドなどでは右手のくつろいだ雰囲気がいっそう生きる。子音と句読点の働きは、たとえば三拍子系の舞曲ジグで力を発揮する。基本リズムとヘミオラ(変拍子)とのギアチェンジも鮮やかだ。

初出:音楽現代 2015年2月号

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