バッハ&シューベルト ― 清水直子(ヴィオラ)



J・S・バッハ《無伴奏チェロ組曲第五番》▼シューベルト《アルベジョーネ・ソナタ》▼清水直子(ヴィオラ), オズガー・アイディン(ピアノ)〔MM2193〕

ベルリン・フィル首席ヴィオラ奏者で、バロック・アンサンブルやソロ活動でも成果を上げる清水が、バッハとシューベルトとでヴィオラの表現力を問う。弓の上げ下げと,音楽の求める力動との平仄がぴたりと合っている。そのおかげで細かく丁寧に分節された旋律も推進力を失わない。一見、何でもないような単旋律から、豊かな多声音楽が聴こえてくる。そこには清水の読譜の深さや、楽器の音域の違いがもたらす音色差への眼差しが透けて見える。シューベルトではテンポを保つピアノのアイディンに対して、自在なルバート(揺れ動き)を聴かせる清水。そのギリギリの隙間と寄り添いとが、深い楽興を誘う。本来の想定楽器でない演奏とは思えない高い水準に脱帽。

初出:音楽現代 2014年9月号

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