モーツァルト《クラリネット協奏曲》― マルティン・フレスト



モーツァルト《クラリネット協奏曲》,《ピアノ, クラリネットとヴィオラのための三重奏曲 変ホ長調》ほか▼マルティン・フレスト(バセット・クラリネット&指揮、クラリネット)▼レイフ・オヴェ・アンスネス(ピアノ)▼アントワーヌ・タメスティ(ヴィオラ)▼ブレーメン・ドイツ室内管弦楽団(管弦楽)▼〔KKC5372〕

技術に隙がなく、それを土台に自由に曲の情緒を行き来するフレスト。その様子は、各所に顔を出す即興的な装飾音によくあらわれている。しかし2曲の室内楽では、音色のパレットの少なさを音量の輝度差で補おうとする悪い癖が見え隠れ。ダイナミクスが音量差に寄りかかると、音楽は途端に一本調子になる。そうなると大胆な装飾もむなしく響いてしまう。確固たる基礎、自由な振る舞い、それらを導く楽器の特性は、《協奏曲》にもっともよく表れた。音域による音色の違いがひときわ大きいバセット・クラリネットに合わせ、管弦楽もオルガンの音栓を変えるように響きを変化させる。楽想の柔らかさはそのままに、コントラストはくっきりと。聴き応えのあるK622だ。

初出:音楽現代 2014年7月号


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