ライプツィヒ・バッハ音楽祭2014(3)



【バッハ・メダル】
 20日(金)の午後は旧市庁舎へ。バッハ・メダルの授与式だ。バッハ演奏に功績のあった個人や団体にライプツィヒ市から贈られるこのメダル、2003年からこれまでにレオンハルト、リリング、ガーディナー、コープマン、アーノンクール、マックス、ベルニウス、ヘレヴェッへ、ブロムシュテット、鈴木、シュライアーの各氏が受章している。
 2014年はベルリン古楽アカデミーが栄誉に輝いた。同アカデミーは1982年に共産圏の東ベルリンで産声を上げ、これまで30年以上、バッハを中心としたバロック音楽の演奏に携わってきた。ルネ・ヤコプスやハンス=クリストフ・ラーデマンとの協同は大きな成果を残しているし、アカデミーで活躍するミドリ・ザイラーやハンス・フォルク、シュテファン・マイといった音楽家が、各地のアンサンブルに「出稽古」に行き、古楽演奏の実態とそこから溢れる生き生きとした音楽の姿を伝えている。
 マイは式典で大演説をうち、メダルをもらってはしゃぐ。それを温かく見守るフォルク。そういうコンビで引っ張ってきたんだなあ、と感慨を深める。フォルクはドイツに起こった1989年の出来事を回想していた。旧東独人にとっては避けて通れない事柄なんだろう。
 同日夜はベルリン古楽アカデミーの答礼演奏会が控えている。祝賀パーティーでのゼクトは1杯に留める。ともあれ、おめでとう、ベルリン古楽アカデミー!これからもすてきな演奏をよろしく。



ベルリン古楽アカデミー
 くだんの答礼演奏会にやってきた。トーマス教会でカンタータの夕べ。管弦楽はもちろんベルリン古楽アカデミー、指揮はハンス=クリストフ・ラーデマン、合唱はドレスデン室内合唱団が担当した。プログラムにはカール・フィリップエマヌエル・バッハゲオルク・フィリップ・テレマンヨハン・ゼバスティアン・バッハの作品が並ぶ。ゼバスティアンはエマヌエルの実の親、テレマンはエマヌエルの名付け親だから、まさに「親子競演」の一夜となった。
 エマヌエルの頌歌《天地創造祭の朝の歌 Morgengesang am Schoepfungsfeste》Wq239、テレマンの連作カンタータ《一日の時の運び Die Tageszeiten》TWV20:39、ゼバスティアンの結婚式用カンタータ《光はつねに義人を照らす Dem Gerechten muss das Licht immer wieder aufgehen》BWV195と続く演目。東ベルリンで生まれ、演奏の道を一歩一歩進み、晴れてバッハとの縁を固く結んだ古楽アカデミーの来し方を、プログラムの流れで示しているかのようだ。
 教会南バルコニーの最西端、つまり最も音楽家に近い場所で聴いたこともあり、神経の行き渡った演奏が直接、耳に届く。管弦楽は、発音の工夫(子音づくり)とレジスター転換(音色の変化)とを、音量の漸増/漸減と和声進行とに結びつける。音量の大小の幅は大きくなくとも、表現の幅は広く、その間のグラデーションも階調豊か。

 管弦楽だけ取っても立派な仕事だが、そこに合唱が加わってきたときの見事さには舌を巻く。コラパルテが完璧なのだ。コラパルテとは、器楽の各パートが声楽の各声部をそれぞれ重複し歌を支えること。このバランスが針の穴を通すレヴェルで実現すると、歌の音量がぐっと豊かになり、音色に厚みが増し、歌詞がより明瞭に聴き取れるようになる。これが実現しているわけだから、彼らのコラパルテが完璧だと言っても、決して言い過ぎではない。
 たとえば、楽譜だけ見れば「タータタータタータタータタータタータ」と続く旋律。そこに彼らは鋏を入れ、一度目は「タータ,タータ,タータ,タータ,タータ,タータ」、二度目は「ター,タター,タター,タター,タター,タター」とする。これは細かいことではあるけれど、飽きのこない音楽を作るためにはとても大切なことのひとつ。音域が違えば音色も違うということも、彼らにとっては自明。そこに基礎を置くと、音域を飛びながら同じ音形を繰り返す単旋律からでさえ、豊かな対話が自然と生まれてくる。
 こうした表現のひだを、指揮者、管弦楽、合唱、独唱が共有しているところが素晴らしい。さまざまな表現法の取捨バランスを変えることで、親子の、また親同士のスタイルの違いを彫琢していくのだから、バッハ・メダルの面目躍如だ。
 ゼーマン、シュトゥーバー(以上ソプラノ)、フォンドゥンク(アルト)、プレガルディエン(子, テノール)、ベルント(バス)らのソリストもみな、堂々とした歌を披露した(とりわけジュリアン・プレガルディエンに拍手)。
 プログラムと言いパフォーマンスと言い、答礼演奏会にふさわしく、晴れ晴れとした夜。


写真:(上)授与式で記念撮影に応じるベルリン古楽アカデミーの面々、(中)演奏を終え聴衆の歓声に答える同アカデミーとドレスデン室内合唱団、(下)指揮者ハンス=クリストフ・ラーデマン


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