東京都交響楽団第766回定期演奏会 ― インバルのマーラー《第9交響曲》



 エリアフ・インバルが指揮する新マーラー・ツィクルスの最終公演。プログラムは交響曲第9番だ。第1楽章から「サウンドよりも子音、旋律よりも語り」の姿勢が色濃くにじむ。強弱はもちろんある。インバルはそこに、管弦バランスの変化に伴う音色の移り変わり、発音するときの楽器の雑味、つまり子音を織り交ぜる。こうした運びでも「粗にして野だが卑ではない」のが都響の美点。第3楽章の「ブルレスケ」が、最終楽章の「平安世界」をすでに宿している。
 子音の変化・音色の変化を伴う強弱法は、楽想の情緒と語り口とをしっかりと結びつけた。そのレヴェルまでダイナミクスの表現を追い込んでおかないと、第四楽章のピアニッシッシモは空しく宙に消えるだけ。この日、「芯の通った弱音」が音楽の意義ある一部として聴こえてきたのも、指揮者と管弦楽、両者のこれまでの取り組みが大きな力を発揮したから。有終の美とはこういうことを言うのだろう。(2014年3月17日 サントリーホール

初出:音楽現代 2014年5月号


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