渡邊孝『J・P・スヴェーリンク鍵盤作品集』



J・P・スヴェーリンク鍵盤作品集, 渡邊孝(オルガン&ミュゼラー)〔ALCD-1140〕

ベルリンから西に100km。エルベ川沿いの街タンガーミュンデには、17世紀に作られ20世紀の終わりに修復・再建されたオルガンが残る。渡邊はこの魅力的な楽器と、名工スコブロネック製作のチェンバロ系小型楽器ミュゼラーとで、鍵盤音楽の16世紀と17世紀とをつなぐ最大の「結節点」スヴェーリンクに迫る。読者には解説冊子の最終頁を開き、オルガンの音栓表を追いながら聴くことを勧めたい。たとえば変奏曲《そうでなくては》。第7変奏に向けて切り詰められていく響きが、最終変奏で贅沢に花開く。一転、次のトラックにはミュゼラーによる「涙のパヴァーヌ」が。音色の多様性や収録曲の物語性が、渡邊の「よき趣味」で統合されている。

初出:音楽現代 2014年1月号

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