アン・アキコ・マイヤース ヴァイオリン・リサイタル



*今回から新シリーズ【過去の批評】を始めます。音楽専門誌に発表したものをこちらで順にご紹介。

 アメリカのヴァイオリニスト、マイヤースがピアノ伴奏に江口玲を迎えリサイタルを行った。バッハからベートーヴェンシュニトケを経て1981年生まれのチュピニスキに至るプログラム。そこに瀧廉太郎、宮城道雄の日本近代音楽を加えた多様な構成だ。
 どの曲でもマイヤースは「滑らかな演奏」を目指す。ほぼすべての音を切れ目なくつなげ、そこに大きな振幅のヴィブラートを常にかける。そんな「滑らかな演奏」とは裏腹に音楽の流れ自体は不自然なところが多い。大きな原因はその和声感にある。和声は緊張と緩和とを繰り返しつつ進行する。緊張すべきところで緩和し、緩和すべきところで緊張しては調性音楽は自然に響かない。
 和声感の点で江口の伴奏は優れていた。とりわけベートーヴェンの「春」での活躍は、この曲を「ヴァイオリン付クラヴィーア・ソナタ」と勘違いさせるほどだった。(1月13日 紀尾井ホール
初出:「音楽現代」2012年3月号