速報・リハーサルに潜入! ブリュッヘンの《ロ短調ミサ》


 2月24日、すみだトリフォニーホールで行われたブリュッヘン新日本フィルのリハーサルに潜入。ベートーヴェン・プロジェクト(交響曲全曲演奏会)を終え、疲れもピークであろうとの周囲の心配をよそに、この日も元気に練習の指揮台に立ったブリュッヘン。プログラムはバッハ畢竟の大作《ミサ曲 ロ短調》BWV232 です。


独唱と器楽、名演の予感!

 練習の前半は、オーケストラと独唱歌手の手合わせです。オーケストラは舞台下手から、ヴァイオリン各8、ヴィオラ6、通奏低音(チェロ4、バス3、ファゴット2、ポジティフオルガン1)と並び、木管楽器群は後方に一列。トランペットとティンパニは舞台下手側、ヴァイオリンの後ろ。ホルンは通奏低音群にまぎれています。抑え気味の編成ながら、モダン楽器なので見た目よりパワフル。現代のホール向きです。しかし、声楽に対して器楽が少し出しゃばってしまうところもあり、調整が必要。本番までに修正されると信じます。
 テンポは全体に速めですが、ブリュッヘンは本番では、練習と違うテンポで演奏しがちなので(ベートーヴェン・プロジェクトで学んだ)、実際はどうなるか分かりません。
 歌い手は女声が下手側、男声が上手側の合唱団横に控え、歌うときは指揮者の隣へ出てきます。《第9》でもステージに上がり、朗々とした歌声を披露した第1ソプラノのラーションとバスのウィルソン=ジョンソン。《ロ短調》では歌い方を変え、宗教声楽曲に相応しい発声。とりわけ、ラーションのヴィブラートを抑えた直接的な声はかなり効果的で、フルートとの相性がすこぶるよいです。カウンターテナーのヴァン・グーテムはこの日は流し気味。テノールのコボウはホールとの相性が良さそうです(欧州の教会のような天井の高過ぎるところはNG)。
 オーケストラの各パートにも細かく指示をするブリュッヘン。とくに木管楽器へのアドヴァイスは微に入り細を穿つもの。ある音形のタンギング「トゥル|トゥル|トゥル|トゥ」を、繰り返し部では「トゥトゥ|ルトゥ|ルトゥ|ル」にしてスイング感を出させるなどは、自身、木管楽器奏者でもある指揮者の面目躍如たる仕事。それに応える管楽器パートのみなさんにも敬意を表します。


合唱団、本番で大化けも?!

 器楽も独唱も本番が期待できそう。とはいえ、この曲の主役は合唱。合唱がこけたらみなこけるのが《ロ短調ミサ》なのです。だから、栗友会合唱団のみなさんが登場する後半の練習こそ、本番の出来を占う上では重要です。
 対位法的な合唱楽章は、各声部がよく分離し響きが立体的に聴こえてこそ、その真価が分かるというもの。そんな立体性を実現するために必要なことは、(1)パート内の音程が揃っていること、(2)パート内の拍節感やリズム、アーティキュレーションが揃っていること、(3)内声、とりわけテノールに厚みがあること、(4)言葉が明瞭であること。(5)器楽による声部補強(コラ・パルテ)が効果的に合唱を支えること。
 この日の練習では、テノールに厚みが足りない印象。テノール声部が薄いだけで合唱全体の立体性がみるみる失われてしまいます。音量の補強が必要です。これはコラ・パルテが上手く行っていない証拠でもあります。器楽と合唱、この辺りの擦り合わせが急務です。また、合唱団全体に拍節感が希薄です。2拍子なら2拍子、3拍子なら3拍子の拍節をきっちりしないと、対位法の見通しが悪くなるばかり。そうとう訓練された合唱なのでその点が惜しい。残りの練習で問題が解消され、素晴らしい本番が迎えられるよう、合唱団のみなさんの健闘を祈ります。
 

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バッハ《ミサ曲ロ短調》BWV232
2月26日(土) 19:15 開演/2月27日(日) 14:00 開演
すみだトリフォニーホール
指揮:フランス・ブリュッヘン
合唱:栗友会合唱団/管弦楽新日本フィルハーモニー交響楽団
ソプラノ:リーサ・ラーション/ソプラノ:ヨハネッテ・ゾーマ
アルト:パトリック・ヴァン・グーテム/テノール:ヤン・コボウ
バス:デイヴィッド・ウィルソン=ジョンソン
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写真:ステージの配置を記したブリュッヘンのメモ(撮影:新日本フィル事務局)