映画『飛ぶ教室』の舞台はいま・・・


 現在滞在しているアパートは、ライプツィヒ旧市街のちょうど真北に位置するアルトバウ(旧建築。第一次世界大戦前までに建てられたものを指す)。南向きの窓からは、ライプツィヒの主要なランドマークである中央駅、東独時代の高層アパート・通称フンガーハウス(注)、中部ドイツ公共放送(MDR)のビル、ニコライ教会の塔、旧市庁舎の塔、トーマス教会の塔、新市庁舎の塔がすべて見渡せます。
 そんな風景のうちもっとも衝撃的なのは、通りを挟んで向かい側の工事現場。ブリュール(湿地帯の意)という名のこの辺りは、東独時代の集合住宅が並んでいましたが、近年、取り壊し工事が進められ、8割がた解体が済んでいます。
 この集合住宅、映画『飛ぶ教室』の舞台となったところです。『飛ぶ教室』(Das fliegende Klassenzimmer)は、1933年にエーリッヒ・ケストナーが発表した児童文学。1954年、1973年、2003年と映画化されました。2003年のものは日本でも公開され、ご覧になった方もいらっしゃるでしょう。この映画の舞台がここ、ライプツィヒ。トーマス合唱団の寄宿学校を舞台に、小説同様、劇中劇『飛ぶ教室』の上演を目指して子供たちが騒動を引き起こします。
 映画の中に登場した街場の子供たちが住まうのが、現在取り壊しの進む集合住宅。合理性のみに貫かれた東独らしい無骨な外観と内装が、今となっては逆に新鮮な建築で、隣接した旧カールシュタット・デパートのギラギラの外観とともに、強く印象に残っています。
 それが、まあ、更地になりつつあるわけですね。解体の仕方も派手です。街中なので爆破するわけにいきませんが、そうとう大きな重機でつまんだり、どついたりを繰り返しています。ギラギラを撤去された旧デパートは、これまで隠れていた19世紀末か20世紀初の装飾があらわになりました。
 映画の中に漂っていた東独臭=石炭の臭いも、もはや遠過去になりかけています。住んでいる人間にしてみれば便利なほうが良いですから、当然の処置でしょう。どこか「東独臭」を売りにする街は出てこないのかしら?ベルリンは多少、そんなところがありますね。ライプツィヒは生まれ変わるベクトルのほうが強いようです(建物よりも、郵便局を始めとしたサービス業のメンタリティーを近代化したほうがずっと良い気がするけれど・・・)。

(注)フンガーハウス:「腹ぺこ住宅」の意。高層建築にも関わらずエレベーターがたびたび故障し、階段での上り下りを強いられた住民がいつもおなかを空かせていたという逸話から名付けられた。


写真:集合住宅解体工事現場。奥に見えるのが旧カールシュタット・デパート。