メンデルスゾーン音楽祭(2)


マウリツィオ・ポリーニはカラフルなおじいさんである

 当代一のピアニストは誰か、という問いはなかなか難しく、にわかに答えにくいのですが、挙げられる名前の中にマウリツィオ・ポリーニが入ることは間違いのないところです。初めて彼の演奏を聴いたのはヴィーンの楽友協会。演奏活動に復帰したばかりのキーシンが前夜に同所でリサイタルを開き、いたく感心したのですが、翌晩のポリーニにはもっと驚かされました。スケールの大きさがキーシンと格段に違い、同じ楽友協会大ホールなのに、空間の大きさが倍に思えたほどです。ピアニストの円熟期は50〜60代に掛けてであることよ、と思わされました。
 そんなポリーニが、ゲヴァントハウス大ホールいっぱいの聴衆に迎えられ、メンデルスゾーン音楽祭に登場しました(8月28日・30日)。リッカルド・シャイー指揮、ゲヴァントハウス管弦楽団ベートーヴェンの第4協奏曲を共演。そのほか、ノーノとハースの現代曲、メンデルスゾーンの<交響曲第4番イ長調「イタリア」>作品90が演奏されました。
 スケール違いの大演奏家とはいえ、1942年生まれで、古来稀な70歳にならんとする音楽家の身体の衰えは隠しようもありません。登場もなんだかよぼよぼのおじいさんが出てきた感じ。それでもなお、才能と経験の豊かさがこの日の演奏をすばらしいものとしていました。
 右手の音色は管楽器の響きとよく溶け合っています。とりわけフルートの息づかいとの相性がよく、管楽器パートに未知の木管楽器が加わったようです。左手は低弦の響きと調和しています。チェロの音色との親和性が高いのですが、それは鍵盤の押し際・離し際の処理がよく、弦楽器の弓の上げ下げがピアノから聴こえてくるから。中声部は人声に似た響きで、ピアノの音としては最も美しく響きました。クラリネットヴィオラの音色を思わせます。
 シャイーが管弦楽のバランスをもう少し管楽器よりに設定し、ソナタ形式の構築性を無視しなければ、なおすばらしい演奏になったでしょうが、それは無い物ねだりというものですね。音色追求に深く傾倒した色彩豊かなベートーヴェンは、ポリーニとシャイー、イタリア人コンビだからこそのパフォーマンスかもしれません。ポリーニ老いてもなお第一線で活躍できるのは、このカラフルな「音色機能」のおかげといえそうです。


写真:ポリーニとシャイー(ライプツィヒ・ゲヴァントハウス, 30日)