ライプツィヒ・バッハ音楽祭 (5)


オープニングコンサート


 雨が降ったり止んだりの変なお天気。トーマス教会のファサード(西正面)側では雨脚が強いのに、南入口側では晴れ間が見えています。
 当夜はライプツィヒ・バッハ音楽祭のオープニングコンサート。毎年、バッハ音楽祭・音楽監督のひとり、クリストフ・ビラーが指揮を担当、トーマス合唱団が開幕に花を添えます。ビラーは、現在のトーマス・カントル(音楽責任者)で、バッハの仕事上の「後裔」。例年のバッハ音楽祭でも、教会音楽家らしいプログラムで、聴衆をうならせます。今年のテーマは「バッハと息子たち」。22日までつづく「バッハの宴」、いよいよ開幕です。

 当夜のプログラムは以下の通り。ビラーらしい、手の込んだ構成です。
J・S・バッハ   <前奏曲とフーガ ト長調>BWV541
          <主なる神、我らの側にいまさずして>BWV178/7
          <主なる神、我らの側にいまさずして>BWV1128
          <主なる神、我らの側にいまさずして>BWV178/7
          <主に喜びを叫べ、全世界よ>BWV Anh.III 160
          <ミサ曲 ト長調>BWV236
J・C・バッハ   <クレド ハ長調>T202/3
C・P・E・バッハ <ハイリゲ (サンクトゥス)>Wq218
J・S・バッハ   <キリスト、神の子羊 (アニュス・デイ)>BWV23

 オルガンの前奏で始まったコンサート。市長の挨拶を挟んで、新発見のオルガンファンタジー<主なる神・・・>のライプツィヒ初演です。トーマス合唱団による同名コラールの合唱を、BWV1128の前後に置く構成。おかげで元々のコラール旋律が耳に残ります。
 コラールファンタジーであるBWV1128は、コラールの各節をそれぞれ異なった変奏で聴かせる趣向で、その手法はバラエティーに富んでいます。ただ、そこは20歳ころの若書き、指の技巧の追求はなされていても、働き盛りの頃に書かれた曲のような作曲上の「学識」というのはそれほど表れていません。
 2006年、バッハが北ドイツ楽派の作品を筆写した楽譜が、ドイツ中部ヴァイマールで発見されました。1700年の日付入りなので、バッハ15歳当時の「学習の痕跡」というわけです。今回発見のBWV1128は、15歳頃から続く学習の延長にある「習作」といった側面が強いように感じます。ヴァイマール宮廷に奉職(第1期)するころの楽曲ですから、北ドイツ楽派「卒業作品」だったのかもしれません。
 さて後半、クリストフ・ヴォルフ博士の挨拶を経て、プログラムは佳境に入ります。テレマン作曲・バッハ編曲のモテットののち、大バッハの「キリエ」と「グローリア」(<ミサ曲 ト長調>)、末っ子バッハの「クレド」、次男バッハの「サンクトゥス」、そして大バッハの「アニュス・デイ」と、ビラーはバッハ親子の楽曲で「ミサ通常文」を組み立てました。オープニングを言祝ぐのに相応しい祝祭性をプログラムに与え、テーマの「バッハと息子たち」にも沿う巧みな構成。感心です。
 トーマス合唱団も「天使の歌声」。残念なのは、「天使」だからといって歌が上手いとは限らないこと。ヴィンツバッハやテルツ、ドレスデン十字架合唱団等、ドイツの優秀な少年合唱団に比べると、2段半落ちる実力となってしまいました。トーマス合唱団にとって訓練法の改善などが2000年代に入ってからの課題です。 
 管弦楽を担当したストラヴァガンツァ・ケルンは好演。とりわけ、きっちりとした足取りながら柔軟性を失わない通奏低音群に拍手を。ストラヴァガンツァは、ドイツを代表する古楽団体へと着実に歩みを進めているように感じられます。


写真:花束を贈られるビラーほか(ライプツィヒ・トーマス教会)