高田泰治さんリサイタル


 高田泰治(たかたたいじ)さんは、モダンピアノ、フォルテピアノチェンバロを弾きこなすマルチ鍵盤奏者。関西を拠点に、師である中野振一郎さんや、所属する日本テレマン協会の公演で活躍しています。このたび東京での初リサイタルに挑み、軽やかながら密度の濃いフォルテピアノの響きを我々に届けてくれました(於東京国立博物館法隆寺宝物館)。プログラムは以下の通り。

 ハイドン  <3つのソナタ>Hob.XVI:40〜42
 モーツァルト<幻想曲 ニ短調>K.397(385g)
       <ロンド ニ長調>K.485
       <アダージョ ロ短調>K.540
       <ソナタ 変ロ長調>K.281(189f)

 客席には音がよく届く一方、奏者の耳には違和感のある音が聴こえる、そんな会場だったらしく、ハイドンソナタが始まってしばらくは調子が出ない様子。とはいえ、チェロの音色を感じさせるバス声部の鳴らし方など、非凡さは冒頭から感じられます。当夜の白眉はモーツァルトの<アダージョ ロ短調>。冒頭、完全4度下行から6度上行するフレーズが耳に残ります。コーダ付きの典型的なソナタ形式を採るこの曲。「展開部」を楽しむことができた当夜の演奏は、ソナタ形式の楽曲の演奏としては理想的です。

 なによりすばらしかったのは、フォルテピアノから「弦楽の音聲」が聴こえてきたこと。これは鍵盤の離し際がすこぶる丁寧だからできることです。奏者の音楽性と、それを活かす技術に脱帽。

 <アダージョ>で見せたパフォーマンスを、プログラムすべてに渡って発揮できるようになることが次の課題。あと個人的には、クラヴィコードを弾いてほしい、と思っています。ただ音が極めて小さい楽器のため、一度に多くの聴衆に聴いてもらうことができません。プロフェッショナルですから、回収しにくい投資はどうしても為し難いことも理解できます。回収できるような長期計画を策定した上で、どうにかプログラミングできれば素敵ですね!

(写真:ニュルンベルク・ゲルマン博物館)